スーツの生地を選ぶとき、多くの人が最初に目にするのは「Super 120's」といった表記です。数字が大きいほど上等——そう説明されることが多く、実際にそう理解している方も少なくありません。
けれども、この数字が示しているのは繊維の細さだけです。良し悪しではありません。細ければ細いほど良い生地になるのなら、話はずいぶん単純になるのですが、そうはならないところに、ウールという素材の面白さがあります。
番手が示していること
Super 100's、120's、150's——この数字は、原毛の平均直径をもとにした等級です。おおよそ、100's が 18.5ミクロン、120's が 17.5ミクロン、150's が 16.5ミクロン。数字が20上がるごとに、1ミクロンずつ細くなっていく。
細い繊維は、確かにいくつかの利点を持っています。肌に触れたときのチクチク感が減り、光の反射が細かくなって上品な艶が出る。同じ重さなら、より薄く、より軽い生地が織れる。触れた瞬間の印象という点では、細番手は明確に有利です。
番手が示していないこと
問題は、細い繊維は弱いということです。
繊維が細くなれば、一本あたりが支えられる力は小さくなります。摩擦に弱くなり、型崩れしやすくなり、着用を重ねたときの回復力——シワが自然に落ちていく力——が落ちる。150's のスーツが「着るたびに気を遣う」と言われるのは、この理由です。
つまり番手とは、快適さと耐久性のどこに軸足を置くかという設計の選択であって、品質の順位ではありません。毎日着る一着に150's を選ぶことは、必ずしも贅沢ではなく、単に不適切な場合がある。
数字にならない部分——原毛と紡績
では、生地の良し悪しは何で決まるのか。実際に着たときの差を生むのは、番手よりもむしろ、次の二つです。
ひとつは原毛の質。同じ17.5ミクロンでも、羊の育った環境、刈り取りの時期、繊維長の揃い方によって、まったく別の糸になります。繊維が長く、太さの揃った原毛は、紡いだときに毛羽が立ちにくく、光沢が均一に出る。産地や牧場を指定して原毛を確保する生地メーカーがあるのは、この差が最終的な表情を左右するからです。
もうひとつは紡績と整理加工。どれだけ撚りをかけるか、どう仕上げるか。強く撚れば耐久性とハリが出る代わりに、柔らかさは減る。弱く撚れば風合いは豊かになるが、毛羽立ちやすくなる。ここに正解はなく、その生地で何を作るのかによって最適解が変わります。
この二つは、生地の耳やタグに数字として書かれることがありません。書けないからです。だから、番手だけが独り歩きする。数字は比較しやすく、数字でないものは比較しづらい——それだけの理由で、本来もっと重要なものが後ろに下がってしまっているように思います。
重さという、もうひとつの軸
番手と並んで見ておきたいのが、生地の目付です。1平方メートルあたりのグラム数で表され、260g/m前後が通年、200g前後が夏物、320gを超えると冬物、というのがおおよその目安になります。
軽い生地は着ていて楽ですが、その分だけ自重で下に落ちる力が弱い。ドレープが出にくく、体の凹凸を拾いやすくなります。逆に重い生地は、立体を保つ力が強く、シルエットが安定する。きれいに見えるという状態の多くは、生地の重さが作っています。
細くて軽い生地が最も上等——という思い込みが根強いのは、おそらく手に取ったときの感触が分かりやすいからです。けれど鏡の前に立ったときの印象は、また別のところで決まっています。
選ぶときに見るべきところ
店頭で生地を前にしたとき、番手の表記よりも先にできることがあります。
手のひらで軽く握って、離す。シワがどう戻るかを見る。戻りの早さは、繊維の質と仕上げの良さがそのまま出るところです。次に、光に対して角度を変えてみる。均一に艶が動く生地は、糸が揃っています。斑に光るものは、どこかで無理をしている。
そして、その服をどれくらいの頻度で着るつもりなのかを考える。週に一度の一着と、毎週三日着る一着では、選ぶべき番手が違います。
私たちの選び方
TRENTE ET UN では、番手を売り文句にしていません。一着ごとに、その型が求める落ち感、必要な耐久性、想定される着用頻度から逆算して生地を決めています。結果として細番手を選ぶこともあれば、あえて中番手に留めることもある。
素材が服の8割を決める、と言っても過言ではないと考えています。だからこそ、数字ひとつに集約せずに選びたいと思っています。
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