展示会に出るということ——バイヤーの前に服を置く意味

展示会に出るということ——バイヤーの前に服を置く意味

9月9日と10日の二日間、TRANOÏ TOKYOに出展しています。合同展示会は、複数のブランドが同じ会場に什器を並べ、店を持つ人や業界の人が短い時間で見て回る場です。会場に置くのは、写真でも図面でもなく、縫い上がった服そのものになります。

服が人の目に触れる時間は、いまはほとんどが画面の中です。それでも展示会という形式が残っているのは、画面に写らないものが服の側にまだ残っているからだと思います。何が写らないのか、そしてそれを確かめる場に服を持っていくと何が起きるのか。ここではその話をします。

写真に写らないもの

商品写真は、決まった距離から、整えた光で撮ります。生地の色と、縫い目の位置と、全体の輪郭はそれで伝わります。伝わりにくいのは、そこから先です。

重さがまず写りません。同じ丈のコートでも、肩に掛けた瞬間に体が受け取る重さは生地によって違います。次に、生地が戻る速さが写りません。袖を持ち上げて離したとき、すぐに元の形に戻る生地と、落ちたところで止まる生地があります。写真は静止しているので、この差はどちらも同じ一枚として写ります。

光の反射も、撮影の条件に強く左右されます。ライトツィードのような表面に凹凸のある生地は、光の当たる角度で表情が変わります。会場の照明の下で、自分の手で角度を変えながら見るのと、決められた一枚を見るのとでは、受け取る情報の量が違います。

裏側も、ほとんど写りません。縫い代をどう始末しているか、肩の内側に何を入れているか、ポケットの袋布に何を使っているか。表から見えない場所の作りは、着心地と耐久性のかなりの部分を決めていますが、商品写真の役割からは外れています。会場では、裏返して見ていただくことができます。

ドローコードを絞ったときにどう膨らむか、といった着方による変化も同じです。写真では一つの状態しか選べません。実物には、着る人が選べる幅のほうが残っています。

同じ型を、三つの生地で並べる

今回、什器に並べているもののひとつが、モッズコートです。26SSでは同じ型を三つの生地で仕立てています。ナイロンとリネンを織り合わせた一枚、コットンとビスコースの一枚、そしてウール・シルク・リネンを混ぜたライトツィードの一枚。型紙は共通で、サイズも4サイズ、男女で共通の展開です。

並べると、差が見えます。軽い生地は空気を含んで動き、重い生地は静かに垂れます。フードから背にかけての落ち方も、裾のドローコードを絞ったときの丸みも、それぞれ違う。変えているのは生地だけで、設計は動かしていません。それでも別の服に見えるところまで差が出ます。

この比較は、一着ずつ順番に写真で見ても成立しにくいものです。人の目は、隣に置かれたものとの差はよく拾いますが、時間を空けて見たものの差はうまく覚えていられません。三着を横に並べて初めて、生地が何をしているのかが分かる。展示会という場が持っている機能は、おそらくここにあります。

質問が、設計を確かめる

会場では、聞かれることがだいたい決まっています。家で洗えるのか。何月に店頭に出せるのか。どのサイズから動くと思うか。並べた三型のうち、どれを店に置くべきか。

これらは、作る側が机の上で答えを決めておける種類の問いではありません。店ごとに客層が違い、置ける面積が違い、扱っている他のブランドが違います。同じ一着でも、置かれる場所によって意味が変わります。

サイズ展開についても同じことが起きます。モッズコートとフィールドジャケットは4サイズで男女共通、スーツとドレスシャツは3サイズにカスタムを足す形にしています。この差は型の性格から決めたものですが、店の側からは在庫の持ち方の問題として見えます。同じ設計を、別の言葉で検討されることになります。

その場で答えられなかった質問は、記録して持ち帰ることになります。答えに詰まるということは、設計の段階でそこまで詰めていなかったということでもある。展示会が次のシーズンに効いてくるとすれば、受けた注文の数より、答えられなかった質問の中身のほうかもしれません。

逆に、説明しなくても伝わることもあります。肩の収まりや、袖を通したときの可動域は、言葉より先に着た人の体が判断します。説明が要らなかった箇所は、設計がうまくいった箇所だと考えることができます。

会場に持っていくもの

私たちは、型を自分たちで設計し、服の大半を東京で縫っています。この体制のことは文章でも書けますが、会場で伝わるとすればそれは経歴の説明としてではなく、肩の収まりや、縫い代の始末や、生地の落ち方としてだと思います。作り方の話は、最終的には出来上がったものの上でしか確かめられないと言っても過言ではありません。

だから、持っていくのは資料ではなく服です。二日間という短い会期のあいだ、実物を手に取っていただける状態にしておくこと。それが、展示会に出るということの中身だと考えています。


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